肘部管症候群とは?

症例解説

肘部管症候群とは?

肘部管症候群(CuTS)は、肘の内側にある「肘部管」というトンネルを通過する尺骨神経が圧迫されたり、引き伸ばされたりすることで発生する疾患です。上肢における絞扼性神経障害としては、手根管症候群に次いで2番目に多く見られます。

どのような症状が現れるのか?

症状は病状の進行度によって異なります。

  • 初期症状: 手の小指、薬指の小指側半分、および手背の小指側にしびれや痛み、感覚異常が現れます。これらの症状は夜間に強まったり、電話の使用や仕事などで肘を長時間曲げたままにしたりすることで悪化するのが特徴です。
  • 進行後の症状: 指先の細かい動きが不自由になる(巧緻運動障害)ことがあり、箸の使用や爪切り、ボタン留めなどが難しくなります。
  • 重症・慢性期: 手の筋肉(骨間筋や小指球筋)の萎縮が進み、手の甲が痩せたり、指が伸びなくなる「かぎ爪状指(Claw hand)」という変形が生じることがあります。

肘部管症候群の原因は?

肘部管は、内側上顆、尺骨肘頭、およびそれらを結ぶ靭帯(オズボーン帯/弓状靭帯)で構成されています。原因は多岐にわたりますが、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 生理的・解剖学的要因: 肘を曲げる動作自体が神経を圧迫・牽引します。また、尺骨神経が本来の溝から外れる「脱臼(Subluxation)」も原因となります。
  • 病理的要因: ガングリオンや滑液包などの腫瘤、骨棘(骨のトゲ)、変形性関節症に伴う変化、滑膜炎などが神経を圧迫します。
  • 解剖学的変異: 稀に「上腕滑車内側筋(Anconeus epitrochlearis)」という異常な筋肉が存在し、それが神経を圧迫することがあります。
  • 生活習慣・職業: 肘を酷使する仕事、長時間の肘屈曲維持、振動工具の使用、肥満、糖尿病などがリスク要因となります。最近では、パソコン作業や電話の長時間使用も要因として指摘されています。

重症度の判定にはマクワーゴン分類(McGowan分類)が使用されます。グレードは下記の3段階に分かれています。

  • グレード I: しびれなどの感覚異常のみで、筋力低下はない。
  • グレード II: 骨間筋の萎縮や筋力低下が見られる。
  • グレード III: 深刻な筋萎縮や感覚障害がある。

主な治療方法について

治療法は症状の重症度や期間に基づいて決定されます。

  • 保存療法(非手術的治療): 軽症の場合に選択されます。
    • 肘を過度に曲げないような安静と活動制限。
    • 夜間の肘屈曲を防ぐための**スプリント(固定具)**やパッドの使用。
    • ビタミン剤や消炎鎮痛剤などの薬物療法。
  • 手術療法: 保存療法で改善しない場合や、筋萎縮がある場合に検討されます。
    • 神経剥離術(In situ decompression): 神経を圧迫している靭帯や組織を切り離し、神経を元の場所で解放する方法です。低侵襲で回復が早いため、多くの場合で第一選択となります。
    • 神経前方移入術(Transposition): 神経を肘の前方に移動させて緊張を緩和する方法です。神経の脱臼がある場合や、重度の変形がある場合に検討されます。
    • 内側上顆切除術: 骨の一部を削って神経への圧迫を取り除く方法です。

MRI検査における画像所見

MRIは尺骨神経の信号変化や形態、周囲の圧迫原因を確認するのに非常に有効です。

  • 信号の変化: T2強調画像(または水分感受性画像)において、尺骨神経が**高信号(白く映る)を示します。
  • 形態の変化: 神経の肥厚(太くなる)や、圧迫部位での扁平化が見られます。
  • 原因の特定: 神経を圧迫している骨棘、ガングリオン、あるいは上述の異常筋(上腕滑車内側筋)などを可視化できます。

ただし、無症状の人でもMRIで信号変化が見られることがあるため、画像所見は必ず臨床症状と照らし合わせて判断する必要があります。

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